「白球アフロ」(朝倉宏景)

クールで現実的な野球ドラマです

「白球アフロ」
(朝倉宏景)講談社文庫

「俺」・瀬川の所属する
都立高弱小野球部に、ある日
アメリカからの転校生・クリスが
入部してくる。
黒人の父と日本人の母を持つ
クリスは、
身長190cmでアフロヘア。
ショートを守る彼の守備は
超高校級だが、
バッティングは…。

白球アフロ。
タイトルがすべてを表しています。
白くて硬い野球のボールと
ふわふわもさもさの黒髪のアフロヘア。
対極にあるべきものが
一つに収まっています。
日本の高校野球チームに
入部したクリスは、
アメリカのベースボールとの違い、
それは微妙なルールや
プレイ・スタイルにおける
ギャップではなく、
思考様式や
何をプライオリティとするかといった
内面的な差異を、
次々に明らかにしていきます。

高校野球ではズボンの裾を
ふくらはぎまでまくり上げて
ソックスを出すのが当然の
スタイルとされているのですが、
クリスはそれに対して「Why?」。
練習中に
(というよりも学校生活の中で)
ガムを噛んではいけないという
指導に対して「Why?」。
部員全員が坊主刈りにしている
習慣に対して「Why?」。
まさに厚切りジェイソンの
「Why Japanese people!?」
そのものです。

読みどころはそれに対する指導者の
適切かつユニークな対応ぶりです。
ズボン裾下げの件については、
「ユニフォームはしっかり着るのが
クール」と理詰めで諭します。
そしてガム噛みの件については、
マネージャーにガムを
買えるだけ買わせ、
ガムを噛みながら練習すると
本当に集中力が高まるのか、
部員全員で試してみるのです。
そして坊主刈りの件については、
監督自らが「俺は前々から
疑問に思っていたんだ」と、
髪形自由を打ち出します。

相手の文化を否定するのではなく、
その違いを認め、
そこから自分たちの築き上げてきた
文化を見直す。
そこにある意味と価値を確かめ、
変えるべきを柔軟に変え、
変えるべきでないものは
信念を持って維持する。
当たり前のようでいて、日本社会では
なかなか出来なかったことを、
部員たちは紆余曲折を経ながら
実践しているのです。

野球ドラマ(マンガを含む)といえば、
「根性」で苦難を耐え抜くものや、
「過剰な一体感」で勝利をめざすもの、
弱小チームが「努力」で
一気に頂点に駆け上がるものや、
「スーパースター」が現れて
部員の意識が一変するものなど、
暑苦しいものばかりでした。
本作品はそれらとは明らかに
一線を画しています。
クールです。現実的です。
そしてこれからの日本社会に向けての
提案が盛り込まれています。
中学生の夏の読書に最適な一冊です。

(2019.8.7)

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